「夜行列車」イエジー・カヴァレロヴィッチ 1959年ポーランド

最近紀伊国屋書店でDVD化されたもの(待ってました!)を早速購入して久々に観ました。
原題はポーランド語で「POGIAG(ポチョンコ)」。「列車」という意味に加え、性癖・嗜好といった生理的・心理的「牽引力」の意味が含まれるとのこと。
〜内容〜
「首都ワルシャワからバルチック沿岸へ向かう夜行列車を舞台に、乗客の人生模様が交錯する……。 鬼才イエジー・カヴァレロヴィッチが描く、疾走感溢れる群像劇。●ポーランド中心部の駅から発車する夜行列車は、翌朝バルチック海岸の町に到着予定。混雑するホームを抜け、一人の男イエジーが1等寝台車に乗り込む。車内には恋人との別れを決意して旅に出た傷心の女、マルタがいる。他の乗客たちである牧師、弁護士、医師、新婚カップル、不眠症を抱えた男なども、それぞれに悩みを背負っていた。マルタを追う恋人もその中にいた。真夜中、車内に警官が乗り込んでくる。一人の殺人犯が列車に紛れ込んだという。そして乗客達の間に波紋が広がる……」

愛する映画に理由はありませんが、この映画もその一つ。あえてジャンルわけすれば、サスペンスまたはメロドラマの要素もあります。ただ、いわゆるそれと違うのは、事の結果をはやく知りたいというよりは、登場人物の心理的描写とそれらがかさなりあう偶然の事の次第にフォーカスされていることで、それは言うまでもなく列車という密室環境においてより強調されます。

基本外科医中年のイエジー気象予報士マルタが中心の話ですが、登場人物は様々で観るひとによって興味が違って面白いかもしれないです。私は主人公の二人が好きですが、車掌が中年女性という設定もいいと思います(その車掌は別の中年男性車掌と恋人関係にある)。


また、個人だけではなく集団心理でも印象的なシーンがあります。列車を緊急停止させ、広がる平原に逃亡する「殺人犯」を十数人の乗客が追うシーン。追いつめた彼らは犯人をリンチ、そして動かない男。実際には気を失っただけだったのですが、死んだと思い一瞬とまどう乗客たち。その瞬間が何ともいえません。勿論「正当化のもと暴力を行うものの、居心地の悪さを感じる」など一応の説明は浮びますが、ここは純粋に映画でしか表現しえないシーンといえるのではないでしょうか。


それと、例えば愛人を追って列車に乗り込むが相手にされずいわば「負け犬」的な役のスタジェックは、実はもう一人のポーランドの巨匠監督アンジェイ・ワイダの代表作「灰とダイヤモンド」の主役を演じた俳優。そこにワイダに対しての微妙な距離感を感じます。あくまで推測ですが。。(ちなみにワイダの作品では「地下水道」が好きです。最新作は「カティンの森」)


イエジーは言う(マルタだったか)。
「誰もが愛されたがってる、でも愛さない」





以前実際にポーランドの夜行列車に乗ったことはありますが、夜中にうるさい家族にたたきおこされたり、隣の客室で盗難があったり・・・。でもその西欧とは違う「暗さ」が魅力で、そのような感じはこの映画でも十分表現されていると思います。