純粋に、人間ドラマ

「双調 平家物語」 橋本治 中公文庫

〜本書より〜
これは、「栄華」という幻想に憑かれた男達の物語である。話は、平清盛から始まらず、その栄華の原型を作った藤原氏、更には、本朝が範とした中国の叛臣伝から始まる。秦の趙高、漢の王莽、梁の朱〓(い)、唐の安禄山。彼等は真実、叛臣なのか。そして、万世一系の我が朝に、果たして真実、叛臣はあるのか。

実はこれ全部で15巻あって今は2巻を読み中でちょうど蘇我氏物部氏が争う時期。たまたま新潮文庫の「蘇我氏の正体」(関祐二著)と並行読みしているのだが、こちらは歴史上悪役とされてきた蘇我氏の再検証が主だが、この「双調〜」ではそこでは善悪の判断というよりただ純粋に人間ドラマの栄枯盛衰が描かれていて、それが面白い。例えばあの「白い巨塔」が面白いのは「医学界の問題を描いた」からではなくただ主人公の財前とまわり人間の生きるドラマをただ純粋に描いているから、というのに似ている。

そこでは勝者が何を得、敗者が何を失ったかはわからない。ただ「生きること」が重要なのだといっているようだ。そこで諸行無常とか盛者必衰とかいう言葉が少しわかるような気がしてくる。